社交不安障害SAD(社会不安障害、社会恐怖、あがり症)の治療
どんなことが苦手
ここまでスピーチ恐怖症がすなわち社交不安障害SADではないことを説明してきました。でも、皆の前で何かをするのが苦手というのが社交不安障害SADの最も共通な症状です。アメリカの研究でも、頻度が高い症状は(1)人前で話すのが苦手、(2)人と一緒に食べるのが苦手、(3)人前で書くのが苦手、でした。人の見ている前で、歌ったり、演奏したり、絵を描いたり、仕事をしたり、他の人の前で行動することも含まれます。
日本人の患者さんに聞いても、「観衆の面前で演ずる、演奏する、講演する」、「会議で発言する」、「パーティーを開く」、「人を誘う、声をかける」などが苦手な人が多く、「幾人かを前に報告する」、「パーティーに行く」、「(ウエイター、ウエイトレスなど)見られている前で働く」、「よく知らない人に対し反対、賛成しないことを表明」などが不安なことが多いです。しかし、これらのことはつい最近まで、日本では一般的なことではありませんでした。ですから、社会的な変化が大きく関与しています。また、前のページで説明したとおり、恐怖の対象がなくとも、苦手な状況の数が多ければ、社交不安障害SADの診断基準に合致します。
患者さんの多くが、「私が苦手なのは1つだけです。みんなの前で話せないだけです」と訴えます。何度も紹介しているDSM-5という診断基準では、パフォーマンスだけの場合、パフォーマンス限局型とすることになりました。ところが、こちら(治療者側)から丁寧にアセスメント(臨床評価)すると、実は、苦手なことが対人関係(社交)のあらゆる場面に及んでいることがよくあります。例えば、上司や先生と話す、同僚に頼み事をする、同級生に何か言われて反論することが苦手な人は多いのです。そのようなことが明らかになるまで、少し時間がかかることも多いです。何度も面接を繰り返しているうちに明らかになることがほとんどです。
この“全般性”の社交不安障害であることは、日常生活にいろいろな差し障りがあることを意味します。ですが、症状が頑固なうえに、自分自身で治そうとしても、あっちもこっちもで、どこから手をつけて良いかも分からず、先延ばしにしがちです。しかし、放っておくと、もっと、どんどん大変なことになります。責任のある仕事をわざと避けたり、昇進が決まると転職してしまったり。嫌なことがあるため、夜中に何度も目が覚め、ようやく明け方に眠りに入ると、今度は、朝に目が覚めません。その結果、遅刻となってしまいます。会社に行くために電車に乗っても、途中の乗り換えの駅で、気が重くて、そのまま、ベンチに座ってしまって、といって家に帰る訳にもいかず、街中で時間をつぶして帰ったりします。ついには、居づらくなって学校、会社を辞めてしまって、家にひきこもってしまったりします。
自分の症状を知りましょう。あなたは次のような場面をどう思いますか。その4 / 性格だから仕方ないどれぐらい、だめで逃げだしたいと思うか、印を付けてください
(◎:その通り、○:まあそうだ、△:いくらか、×:全く違う、大丈夫)
( ) 公衆の面前でスピーチ、演奏する、演ずる ( ) 会議で発言する ( ) 目上の人と話をする ( ) 幾人かを前に報告する ( ) パーティーを開く ( ) (職場、クラスで)自己紹介をする ( ) パーティーに出席する(結婚式に参加する。) ( ) 他の人たちが既に着席している部屋に入る(みんなに見られる) ( ) 注目の的になる ( ) よく知らない人に対し反対、賛成しないことを表明 ( ) よく知らない人の目を凝視する ( ) 見られている前で働く(マクドの店員) ( ) 見られている前で書く ( ) 店に物を返品する ( ) 高飛車なセールスマンを断る ( ) みんなと食事する ( ) 同僚と雑談をする ( ) よく知らない人に電話する ( ) よく知らない人に話す ( ) 知らない人に会う ( ) 公衆便所でオシッコをする ( ) (筆記)テストを受ける ( ) 車で人を迎えにいく ( ) 公衆電話を使う ( ) 小さいグループに参加する ( ) 家以外でウンチをする ( ) 教室で先生に手を挙げて質問する ( ) 教室で名前を呼ばれる ( ) 教室で朗読させられる ( ) 今までに行ったことのない歯医者に予約の電話をする ( ) 歯医者に初めて行く ( ) みんなの見ている前で、黒板に字を書く ( ) 食堂で席を探して歩き回る ( ) 他の人が見ている前でスポーツをする ( ) 遅れて、どこかに行く ( ) どこかで待ち合わせをする ( ) 店員に商品のことを聞く ( ) クラス(職場)で異性に挨拶をする ( ) 近所の人に会ったときに挨拶をする ( ) 職場の忘年会、新年会に参加する ( ) 電話で友達を遊びに誘う ( ) 文化祭、パ-ティーで知らない人に声をかける ( ) 道で人に道を聞く ( ) お店で(例えば電気店で)商品のことを尋ねる