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小児の転換性障害、パニック
過換気症候群(そして身体表現性障害)

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小児の転換性障害、パニック、過換気症候群(そして身体表現性障害)

1.定義、概念

 他の多くの精神障害と同様に病因は不明です。しかし、転換性障害との名称は、「心の、特に無意識における解決されない葛藤の象徴的解決として身体症状が現れ、これにより葛藤を意識の外に追いやり不安が減少するため一次疾病利得があるとの病因論が含まれている名称なのです。家族や医療者関係者が身体疾患の存在を支持してしまって、患者が登校などを回避できると二次疾病利得とされます。しかし、小児、児童、思春期の転換症状では、その象徴性がはっきりしないことが多いのが現実です。

 成人の過換気発作は、パニック障害の症状の一つで、薬物療法が有効です(それだけではなく、当然、社会心理的な介入も必要ですが)。一方、小児、児童、思春期の過換気症候群・パニック発作は、情動不安定なところにストレスがかかると発生する心因性の失神、失立と同様のものを指すことが多いです。

 小児、小児期、思春期での転換性障害は、10-15歳の間に最も多く、女子のほうが男子の2ぐらい多いです。日本の一般人口における有病率は不明ですが、ドイツでの14から24歳までの一般人口を対象とした研究で転換性障害の12ヶ月有病率が0.2%であったと報告されています。一般人口中の有病率は低さと対照的に、小児神経内科には、数多く紹介されてきます。

2.病態生理

本障害の名称自身が「無意識の葛藤」が「転換」して現れたものとしています。

3.臨床症状、経過、予後

 転換性障害の症状は小児の場合、歩行障害が最も多く、7割と報告されています。一方で、単独の症状を示すことは少なく、6割もの児童では複数の症状を示しているために厳重な検査を要し、1/4が長期の入院を余儀なくされたと報告されています。

 心因性の運動障害には四肢の麻痺、または痛みのために動かせないなどの症状、歩行障害、振戦、失声などがあります。運動障害ではその程度は様々であるが、完全な失立失歩は減少しているとの感触があります。心因性の意識障害の程度も意識が軽度、変容したものから昏睡(本当は昏迷)まで様々です。感覚の症状では触覚の低下、痛みなどがあります。手足の知覚脱失では、典型的には手袋型、靴下型となり、触覚、温覚、痛覚のすべての感覚は脱失し、皮膚節ではなく、解剖学的に境界ができるとされていますが、その様な典型例は少なくなりました。満ち足りた無関心 (belle indifference)と称される、症状の重篤さに比べて無頓着であることも、実際には見られないことが多いです。心因性視力障害は頻度が多く、学校検診で偶然に発見されますが、短期間で改善することから、小児科や精神科を受診しないままのことが多いと思われます。解離性てんかんは、強直と粗大な振戦で、典型的な、いわゆる後弓反張(ヒステリー弓)は見られらくなりました。解離性健忘とは、最近の重要な出来事の記憶喪失です。逆行性健忘で、事故や予想外の喪失体験など外傷的な出来事と関連し、部分的、選択的な健忘です。小児では少なく、思春期からみられるようになります。

 この様な症状が、小児、思春期の場合、突然現れ、一過性に終わることが多いです。成人の転換性障害に比べて、演技的、誇示的の程度が軽く、一人で居るときには症状が出なかったりします。

 身体的、性的な虐待、家庭内の不和、両親に受け入れられていないと感じていること、家族内のコミュニケーション不足、学校での不適応などが環境要因です。

 医療側が誤診、訴訟を恐れ、過剰に医学的な検査を続けますと、転換性障害の診断を遅らせ、転換性障害を医学的なものとしてしまい、適切な治療を遅らせしまします。そのため、身体的な診察を注意深く、順序よく、手際よく行う必要があります。考えられる、除外すべき身体疾患に適したMRIなどの検査を行います。

 転換性障害と誤診されやすいものに、脳腫瘍、側頭葉てんかん、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症、特発性ジストニア、副甲状腺機能亢進症、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、ベーチェット病などが上げられます。

 成人の転換性障害が慢性の経過をたどるのと異なり、子供の場合は、ほとんどの症例が良好な経過をたどります。追跡調査では8~9割の子供が完全に回復しました。しかし、4年後には3~4割が気分障害か不安障害の診断がついたという報告もあります。一方、大学病院の児童精神科に紹介された場合、特に男児では2割程度しか治癒、軽快しなかったと報告もあります。

4.診断基準

 表に、一般的な診断名とWHOによるICD-10診断名の対比をまとめました。アメリカ精神医学会の診断基準(DSM)では、意識の解離と身体に表現される身体表現性障害に分けて考えています。その結果、解離性障害は独立した単位であり、転換性障害は身体表現性障害の下位診断として位置づけられています。

小児科での名称   ICD-10分類
  F44 解離性(転換性)障害
  F44.0 解離性健忘
  F44.1 解離性遁走(フーグ)
心因性意識障害(偽神経症状) F44.2 解離性昏迷
  F44.3 トランスおよび憑依状態
心因性運動障害(偽神経症状) F44.4 解離性運動障害
心因性痙攣(偽神経症状) F44.5 解離性けいれん
心因性知覚、視覚障害(偽神経症状) F44.6 解離性知覚麻痺(無感覚)および知覚(感覚)脱失
  F44.7 混合性解離性(転換性)障害
  F44.8 他の解離性(転換性)障害
  F44.80 ガンザー症候群
  F44.81 多重人格
  F44.82 小児期または青年期にみられる一過性解離性(転換性)障害
  F44.88 他の特定の解離性(転換性)障害
  F44.9 解離性(転換性)障害、特定不能のもの

治療方針、治療基準

 治療は1例ずつに合わせる必要があります。まず、正直で率直な態度で、本当の病気にかかっていること、しかし、それは、身体疾患ではなく、こころの病気にかかっていることを知らせることから始めます。学業成績の低下、遅刻、不登校学校などは心の葛藤のためで、怠けでないことを説明します。ご両親が、器質的疾患が無いことを受け入れられない場合は、家庭内での緊張や不調和を医療側に向けているのかもしれません。
 心因を積極的に把握していくことが必要です。治療関係の確立に努めながら、学校での同級生からいじめ、無視、クラブでの挫折、学業不振などの挫折体験がないか、家庭内で身体的、性的虐待がないか、両親の不仲がないか、確認していいきます。本人自身の特性も注意深く観察していきます。自分の気持ちや葛藤、とくにちょっとしたつまずきを内緒にせず、親などの養育者に素直に話せるのか、話した場合に受け入れられる環境にあるのかは重要な要素です。複雑すぎる家庭環境、養育者(親)自身に身体的、精神的な余裕があるのも重要です。過去の転換性障害、解離性障害と考えられるエピソードや、慢性の身体疾患の有無も把握します。
 なるべく外来治療を原則としますが、入院した場合は、なるべく短期間とし、親の過剰な面会・付き添いを制限するべき時は、よく説明の上、その様にします。
 患者や環境の要因があり、介入が必要な症例では、専門的な治療を行います。そのような治療としては行動療法、精神療法、心理療法、精神分析が上げられます。とくに、この年齢の症例に対しては、行動療法が有効であるとされます。さらに、自分の考えや感情を十分に表現できない患者を対象とした遊戯療法、自分の精神内界にあるイメージを表現、調整させる療法による治療が行われています。家族療法も有効な治療法です。また、医療関係者以外に学校などの教育機関、児童福祉機関、福祉機関との連携が必要な症例も多く、その意味合いで、環境調整も重要です。いずれにせよ、この様な専門的な治療は長期間の関わりが必要となります。

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