治療選択
自動車運転に関しては、パニック発作が頻発している場合、運転を恐怖・回避し、こちらの指示以前に自ら運転を中止していることが多いです。さらに、就労が困難な場合が多く、治療選択以前の問題として、まず休養・仕事のペースダウンを決断することを援助します。治療以前の課題として休息が重要なのです。
自動車運転を職業とする方、とくに多くの長距離トラックドライバーにとって、運転席は心地のよい空間です。全日本トラック協会の調査によると、トラックドライバーを職業に選んだ動機として1位は「車や運転がすき」(63.8%)、2位が「運転中は他人に干渉されない」(50.9%)でした5)。長時間労働の改善策としての「ツーマン運行」(二人運行)には実に76.7%のドライバーが「抵抗がある」と回答されています5)。個別の事情・好みによりますが、運転席は他人に干渉されず、一人になれる心地よい空間で、パニック発作を起こしそうな空間ではありません。
パニック症・パニック障害で自動車運転が問題となるのは、営業で得意先を回るのに自動車運転が必要な場合など、自動車運転が主な業務でない場合が多いです。また、自動車運転ではありませんが、服薬が厳しく制限されている職業、例えば客室乗務員やパイロットでは、自動車運転以上の服薬制限がありますが、就労を継続したいという強い意志、希望があり、治療意欲も「通常以上」であり、そのことが治療選択に大きく影響します。
治療には薬物療法と心理社会的治療があります。薬物療法としては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)、三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬などが有効です。パニック症・パニック障害での薬物療法の第一選択はSSRI、SNRIです6)。ただ、パニック発作が頻発している場合、救急外来を受診し、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬がすでに処方されていることが多いのです。パニック症・パニック障害の心理社会的な治療法として最も多く研究されているのが認知行動療法ですが6)、その他にパニック症・パニック障害に合わせた力動的精神療法(panic-focused psychodynamic psychotherapy, PFPP)7, 8, 6)も有効性が報告されています。
まずは休息、ペースダウンなどによってパニック発作を抑えつつ、疾患についての説明を始めます。どのような治療法があるかを説明し、患者さんと協力して治療法を選択することになります。この時、現在の職業を継続するのかどうかが、その後の治療方針に大きな影響を与えます。客室乗務員やパイロットの場合、職業意識が強く、継続の意志が固いことが多いです。そのため、薬物療法を絶ち、純粋な心理社会的治療のみでの寛解も可能です。一方で、会社の人間関係に疲れ切っている営業マンの方の場合、転職を決意されることも多いです。従って、薬物療法のみを選択することがほとんどです。選択する上で、その方が、どれぐらいの頻度で、どのぐらい時間を作り、治療に取り組む必要を感じているかも大きい要素です。認知行動療法や力動的精神療法を望んでも、実臨床では翌日に予約が取れるわけではありません。治療開始は相当遅れることがほとんどです。
心理社会的な治療と薬物療法の両方が1つの施設で用意できていれば両者の密な連携が可能で、併用療法の効果がより発揮されます。本院では、その両方を提供しております。併用療法を選択された場合、精神科医、精神科看護師、臨床心理士が連携して治療に当たります。