その3/社交不安症・社交不安障害のプロトタイプ
社交不安症(社交不安障害)の基本的な精神病理、プロトタイプとはなんでしょう。典型的な全般性の社交不安症(社交不安障害)では、幼少時期に行動抑制(childhood inhibition)という気質、より生まれつきに近い行動特性があります。ケイガンら(Kagan, 2013)は、生後4ヶ月の赤ちゃんの何割かがアルコール綿の臭いになどの刺激に高反応で、怖がりであることを見いだしました。その赤ちゃん達は21ヶ月で見知らぬ女性や物体に驚き、31ヶ月に普通でない服装をした見知らぬ女性を恐がり、そして7歳、11歳と続く息の長い縦断研究において、その気質がおとなし過ぎる気質に変化しながら継続することを明らかにしたのです。当然、全員が怖がりの気質を有し続ける訳ではありませんが、相当数が、怖がりのまま、大人しすぎるままです。
この幼少時の行動抑制が、不安症発症の危険因子であることが各種の研究によって明らかにされています(Kagan, 2013)。全般性の社交不安症(社交不安障害)では、幼少時に行動抑制、つまり「怖がり」の気質を有し、青年期に至っても、その「怖がり」の気質を有し続け、同級生との親密な仲間関係(peer group)を築くより回避に向かいだし、その結果、対人相互関係への不安を強め、全般性の社交不安症(社交不安障害)となります。この時点では性格なので治療可能と受診に至りません。社交場面だけではなく、緊密な仲間関係からも逃避する結果、うつ病(大うつ病性障害)や摂食障害、果てはひきこもりとなってしまいます。そのような状況では、もはや受診も非常に苦痛を伴う状態となっています。
このようなプロトタイプの把握が重要なのは、パフォーマンス恐怖症は様々な病理・病態で引き起こされる一症状に過ぎないからです。例えば、目立ちたがり屋さんです。幼少時期の行動抑制を有さず、仲間に対する遠慮ではなく目立つことを望んでいる場合、このプロトタイプには合致せず、治療方針も全く異なります。
対人相互関係の病理の理解に重要なのが同級生、同僚です。家族に対しては、内弁慶と称されるよう普通に自己主張できます。反対の極である他人、すなわち再び出会わないであろう人とも、気負わずに応対できます。ひきこもっていた社交不安症(社交不安障害)の患者さんが、駅構内店舗で一人で洋菓子を販売するアルバイトを突然、始め、なんと数ヶ月続いたのです。お客さんは他人で、1度きりで、もう会わない、付き合わないで良いと思えば、ひきこもりに至るほどの社交不安症(社交不安障害)患者さんでも、何とかなるのです。それが応援がやってきて2人で販売することになった日から、出勤できなくなりました。同僚に気に入られなければならない、絶対に嫌われてはならないと考えた瞬間、もう朝に起き上がれなくなります。頭は重く、激しい頭痛、吐き気、下痢に悩まされることになります。