その4/同級生・同僚の誕生
これは対人恐怖の時代から指摘されていました。高橋徹先生は「対人恐怖-相互伝達の分析を1976年(医学書院、東京)に出版し、「私」と「他者」の中間、「中間的な人間接触」での「人前」の理解が重要であると精神病理を論じられました。奇しくも出版の2年前の1974年に日本の高校進学率が90%を越えました。工業先進国各国では、20世紀中頃までに確固とした学校制度が築かれ、特権階級、支配階級の独占物であった教育が庶民に開放されました。学校制度が築かれ、人々が高等教育を受けることが一般的になるその時代に、洋の東西を問わず対人相互関係への不安の病理が注目され、対人恐怖症(Nagata, Matsunaga, van Vliet, Yamada, Fukuhara, Yoshimura & Kiriike, 2011)や社交不安症(社交不安障害)(Liebowitz et al, 1985)が提案されたのは、偶然ではありません。児童期と青年期の間、子供と大人の間、それも15~18歳という、最も親密な仲間関係を形作り、人格形成に重要な時期を学校で過ごすことになったのです。
そして社会全体の変化にも目を向ける必要があります。第二次世界大戦から1970年代半ばまでの資本主義の発展形態は、フォーディズムと呼ばれます。米国でフォードT型自動車の大量生産の確立とともに、安定した雇用と収入を得て大量消費を可能とする層の登場、即ち労働者は優れた消費者とする資本主義システムが登場したのです。それまでの村での農耕の共同作業では、住居と労働が一体となったコミュニティでした。何代にもわたってその地に住み着き、営々黙々と作物を育てていたのです。型どおりの挨拶さえ出来れば、一生を無難に終えることができました。現代では、職業選択・移動が自由になり、労働の場は農地から工場、工場から金融、IT産業というネット世界に「進化し、転職が一般的となりました。同僚との微妙な関係を維持するコミュニケーション能力と対人相互関係の質の高さが要求されているのです。
プレゼン恐怖症(パフォーマンス恐怖症)では発汗、振えといった身体症状が相手に察知されるのを恐れ、プレゼンを回避します。朝礼で話すのは月に1回あるかないかです。1対1の対人相互関係は学校(職場)で朝から晩まで続き、それへの不安が強い全般性の社交不安症(社交不安障害)では、日常生活への影響は深刻です。相手に嫌われることを恐れおののき、常に相手に嫌われないように細心の注意を払うのは疲れることです。結果、うつ病に陥ることも希ではありません。