社交不安障害(Social Anxiety Disorder、SAD)の 概念の成立と変遷
その2 / あがり症-パフォーマンス恐怖症
あがり症は学術的な用語ではありません。辞書では、あがり症を「人前で極度に緊張しやすい質(たち)であること」(大辞泉)、「恥ずかしがり屋」を「ちょっとしたことで恥ずかしがって人前に出ることを嫌う性質。また、その人」(広辞苑第6版)となっています。このように、あがり症、恥ずかしがり屋は病気や精神障害ではなく、正常範囲内の性格や気質を表す言葉なのです。しかし、現在の社交不安障害(SAD)の診断基準では、あがり症の方も、診断基準に合致し精神障害とされることもありえます。この視点からみると、当初、社交不安障害(SAD)が日本に紹介されたときに、精神科医の間に多くの戸惑いが起こったのも当然です。社交不安障害(SAD)の現在の診断基準となったのか、それについては上述の通りです。
一方、あがり症の一部が社交不安障害(SAD)の診断基準に合致するからと言って、薬物療法が全般性の社交不安障害(SAD)と同様に有効かというと、そこからが話がややこしいのです。また別の機会にご説明しますが、社交不安障害(SAD)に対する薬物療法のエビデンスは、中等症・重症以上に限られるのです。軽症例に対して薬物療法が「有効」なこともありますが、そのメカニズムは異なるのです。
その3 / SADの病像の変化