現代のうつ病治療
その3 / 治療側からの視点
その2に述べた、社会学的な見地は、一見、診察室では関係ないかのように感じられるでしょう。でも、目の前にいらっしゃる「患者」となってしまったクライエントの苦しみを理解し、支える上で重要なのです。1950年代の米国には、正確な統計自身が存在しませんが、精神科の患者は1000万人に50人と言われていました。現在、米国での何らかの精神障害に罹患する率は10人に一人を超えてしまっています。そこまでくると、精神障害に罹ってしまうかどうかは、人生のほんのわずかな躓きが原因となってしまいます。その人が体質的に病気になる脆弱性を持っていたと考えるのは間違いです。日本では米国ほどではないものの、規制緩和やグローバル化で急速にその状況に近づいてきていることは明らかです。今まで、本人の弱さの問題とされてきたことが、そうでなく、社会全体を覆い包む息(生き)苦しさのためです。その理解が、治療側と(患者)クライエントの間のその共通認識が、それから治療を進めていく上で基礎となります。まずはクライエントのことを認めることです。そして、クライエントが診察室にたどり着いた長いこれまでの道のりを傾聴し、共感し、ねぎらうことから始めます。そして、薬物療法や休息療法によって生きにくさが、その苦しさが取り除かれる訳ではありませんが、その人の責任ではないことを共に認めることができれば、再出発に向けた第一歩となります。再出発には冷静になることが必要不可欠ですから。
そこから、次のアプローチは、その人のこれまでの生き様次第です。千差万別で、うつ病であれば、このアプローチと決めることができません。人の人生がどれ一つをとっても同じものがないように、同じアプローチではありません。診察室の中で一人一人丁寧に聞いていくことが必要です。
でも、それでは、後輩の治療者達を教育できません。後輩達の教育のためには、いくつかの、プロトタイプのモデルを提示しています(実際の治療では、そのプロトタイプモデルに無理に当てはめようとせず、個々のクライエントの人生を理解することが重要です)。そのプロトタイプモデルの1つに、全般性の社交不安障害(SAD)をベースとするうつ病があります。また、パーソナリティをベースとする気分の統制障害のモデルもあります。それぞれのプロトタイプのモデルに関しては、それぞれの項目にゆだねます。
さいごに